眼科専門医認定試験 合格体験記

子育てDrの合格体験記 ―妊娠、出産を乗り越えて―

日本医科大学付属病院眼科 木村彩香


第1回日本専門医機構眼科専門医認定試験(第34回日本眼科学会専門医認定試験)に合格しました。第二子の出産1か月後に眼科専門医認定試験を受験するという、なかなか特殊なケースでしたが、今後受験される先生方の参考になればと思い、寄稿させて頂きます。

専門医試験の勉強を開始したのは、試験半年前(妊娠6か月)です。主に第一子の就寝後や通勤時間を利用して、『眼科専門医セルフアセスメント第3版』(以下、セルフアセスメント)を3月末までに1周解き終えることを目標に解き進めました。問題を解きながら、得た知識をA4用紙に書き出していきました。覚えなければならない事項が山ほどあり、途中挫折しそうになりながらも、“毎日1問でも1ページでも多く、第二子出産後は今より絶対に忙しくなる”と、自分に言い聞かせて、ひたすら解いては書き出す作業を繰り返しました。
毎日の少しずつの先取りが実を結び、3月上旬(妊娠8か月)にはセルフアセスメントを1周解き終え、書き出したA4用紙は120枚になりました。3月末までに120枚の知識を整理しながら、ルーズリーフに清書しました。同一の疾患が何度も異なる角度から問われるので、その度に遡って復習をすると、知識を身に着けることができました。

4月は『眼科専門医への最短コース 眼科専門医試験問題集 第23~30回』(以下、最短コース)と第31~33回の試験問題を解きました。1回ずつ問題を解いて、解説を読み、足りない知識はルーズリーフに青ペンで書き加えていきました。知識が徐々に増していくので、28回以降は平均75%程度、得点できるようになりました。出産直後は、寝不足の毎日で集中して勉強できないので、5月中旬の出産予定日を試験日と想定し、弱点強化と最短コースで間違えた問題の復習を行いました。私の場合、屈折、病理、網脈絡膜分野が苦手だったので、それらを中心に復習しました。屈折に関しては眼科専門医試験の過去問だけでなく、視能訓練士国家試験の問題も解きました。病理に関しては、第27回眼病理組織スライドセミナーをweb受講したり、日本病理学会ホームページの病理コア画像を参照したり、病理所見を自分の言葉で言えるように訓練しました。網脈絡膜疾患に関しては脈絡膜腫瘍の鑑別、Best病とStargardt病の鑑別、白点症候群の鑑別など、紛らわしい疾患同士を対比して覚えるようにしました。

5月中旬以降(出産直後)は、まとめルーズリーフをひたすら通読し、1つでも多くの知識を頭に入れるようにしました。通読するだけなら新生児を抱っこしながらでも、ミルクをあげながらでもできるので、このまとめルーズリーフは作成して正解でした。また直近で問われた知識は青ペンで記載しているので、目に留まりやすく、効率よく勉強できたので、まとめを作成する際には、色分けすることもお勧めします。

6月に入り、試験当日まで10日をきったタイミングから、記述試験対策を始めました。『眼科研修ノート第2版』“第2章 B 眼科検査とその手順”の項目を読み、各検査の仕組みや検査結果の解釈の方法を平易な言葉に置き換えて、まとめを作成し、通読しました。

試験前日は、眼振の手術名、上斜筋麻痺の手術名や手術方法、外転神経麻痺の手術名、眼科学に貢献した偉人の名前など、とにかく名称を覚えられるだけ覚えました。

こうして試験当日を迎え、一般問題、臨床問題ともに冷静に回答することができ、無事合格することができました。

約半年間にわたる試験勉強期間でしたが、振り返ってみると、かなり多くの知識を身に着けることができた半年間、そして、体力と気力との勝負の半年間でもありました。子育て中、かつ、妊娠中の受験ということで、独身時代の医学部受験や、医師国家試験とは異なる大変さがありました。
独身のときは、自由に使える時間が比較的多く、自分の目標にだけ集中しやすい状況でしたが、家族が増えると、そういうわけにもいかず、とにかく勉強時間の確保と勉強の質(集中力)の維持を意識しました。勉強時間を確保するために、子供と触れ合う時間を削ることは自分のポリシーに反していたので、保育園へお迎えに行ったあと、さらに公園で日が暮れるまで遊んだり、節分、ひな祭り、こどもの日など、季節の行事を楽しんだり、思い出を作ったり、となると体力が必要でした。さらに、新型コロナウイルス感染症流行による保育園の休園や短縮保育など、イレギュラーな状態を、家族で協力、調整しながら、通常勤務も滞りなく行い、勉強も頑張るとなると、体力だけでなく、気力も独身のときの何倍も必要でした。
少し早いペースで勉強をしていたので、子供が体調を崩し、勉強ができない日が多少あっても、「たまには、こんな日もあるよね。」と心に余裕を持つことができました。その代り、電車の通勤時間や子供がぐっすり寝ている間は完全に集中して、まとめノートを読むなどして、勉強の質は保つようにしていました。
いよいよ第二子出産のために入院した際は、まとめノートと最短コースを持ち込み、「最後の追い込み、さぁこれチャンス!」とばかりに勉強をしていたら、産科の先生に「まだまだ余裕そうですね。」と言われ、陣痛促進剤の速度を上げられ、たちまち勉強どころではなくなってしまった、という笑い話もあります。
出産から退院までの間は、生まれたての第二子の寝顔に癒されながら、そして、自宅で主人と過ごす長女が少し気がかりになりながらも、快適な個室で、上げ膳据え膳、この上ない穏やかな勉強生活を送ることができ、体力も回復し、心に余裕ができました。
退院後からは、予想どおり、寝不足の日々でしたが、「あと、1か月頑張れば、今までの努力が報われる」と信じながら、第二子の生活リズムに合わせながら寝起きし、何とか気力で乗り切り、試験当日を迎えました。
最後に、出産により同期に後れをとりたくない、同期と同じタイミングで眼科専門医を取得したい、そんな負けず嫌いの私の目標を応援し、ご配慮頂いた医局の先生方、傍で支えてくれた家族に心から感謝申し上げます。生後2か月から抱っこひもで電車に揺られながら勤務先の病院へ一緒に通勤してくれた長女、共に眼科専門医試験の勉強をし、健康に産まれてきてくれた次女、2人の小さなチアガールにも心から感謝し、筆を置かせて頂きます。